「日本からわざわざ来たんだから、蔵を訪問させて?」といったら、
「今忙しい」と。
それでもと頼み込んで訪問すると、
忙しいはずが皆でお茶を飲んでのんびりしている。
こんなところがフランスなのかと思いつつ挨拶をすると、
「別に日本に売らなくともヨーロッパに顧客が1000軒あるからいい。」
と言われ、
そんな事言わないでとゴーミヨの記事
(’96年間優秀栽培者受賞記事)を見せながら
食い下がり、やっと試飲させてもらっているところへ
創業者が出現。開口一番
「日本人の女性は始めて見た。可愛いからキスさせろ」と。
80歳はとうに過ぎて見える親父の言葉に
女将も私も一瞬固まってしまった。
その隙に女将を抱き寄せ頬にキス。
「ふざけるな、日本では絶対にありえないゾ!」
という言葉を飲みこんで我慢していると、
この色男は家の親父と同い年の73歳だという。
こんないい加減で不謹慎、
でもこんな洒落たことは家の親父には絶対言えない。
ワインの味よりもこの親父の歓迎にすっかり参ってしまった。
気合が入り、全てのラインンナップを仕入れた中の、
お気に入りはあと2本。
この看板ワインの中身が普通のブリュットではなく、
プルミエクリュとグランクリュのブレンドだという事、
そして自分の未熟さに20年経ってやっと気づく。
あの色男のフランス親父も家の親父ももういない。
「ろれつが回らなくなっても、朝までずっと飲んでいたい」
と皆が言う、
このシャンパーニュにブレンドされた色気の秘密はもう聞けない。