このワインを「美味しくていつも飲んでいる」
という人がいたら会ってみたいと
長い事思っていた。というのも、
普通に前日に抜栓し飲む時間に合わせて温度を
15度以上に上げて行くと、
途端に味のバランスが崩れ「不味くなる」。
写真のような最高のロブマイヤーグラスをもってしてもだ。
きっと外れを引いてしまったと思っていたが、
先日偶然にこの謎が解けた。
というのもセラーから出してすぐに飲んだら「美味かった」からだ。
なぜか?と考えると、色は赤だが味が白ワインだったから、
セラーから出したばかりの10度で美味しく感じたのだ。
この地区コートシャロネーズの特徴だったのに
長い事気づかずに、
同じ出身のメルキュレを飲んだ時も全然美味しく感じられずにいた。
勿論温度が低くて美味いという事は、20度くらいまで温度を
上げて飲むヴォーヌロマネやシャンベルタンのような
目のくらむような妖しい香りに包まれるという事は無く
余韻も短い。が、それを埋め合わせて余りあるような
違う魅力がある。それは、
チャキチャキで小柄な日本女性が細部に気遣い
面倒をみてくれるようで、
また別の言い方をすれば、
箱庭を俯瞰した時のような可憐で緻密な
完成度がそこにある。
必ず大柄でヴォリュームがあるのが良いというわけでないことを教えてくれる。
でも今の時流ではこのようなチャーミングさは評価されないだろう。
だからこの地区のワインはいつも安いのはもったいないことだ。
ワインの香りが良いのに味が良くないのは、
酸化が不十分か温度が
低すぎ(これが多い)か、
逆に今回のように高すぎという事が考えられる。
何れにしても、すぐに結論を出さずに(捨てずに)経過を観察し
試行錯誤してみるのもいいかもしれない。
そうすればこの梅の様な
すっきりした酸味を、優しくいたわるようなアンズの甘みが、
とても爽やかで切れ味のいい後味を届けてくれる。
もちろん甘みと共にピノノワールのチャーミングな香りも広がる。
鬱陶しい気候が続いているこの頃に飲むには最適で、
先日はこれに
酒蒸しタコと梅醤油を合わせた
(梅の酸味を酒で薄め味醂で甘みを加えたもの)。
甘酸っぱいタコの後味を心地よく流してくれるのは、
やはりこのような
甘酸っぱくのどを冷たく通る爽やかさが似合ったようだ。
客人たちも
意外なマリアージュに目を丸くした後、
美味しさで目が細くなっていた。
人を幸せにするのはある意味簡単かもしれない。
それは、美味しい飲み物と料理を用意すればいいのだから。
でもそれが難しい。